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菜根譚
作者:日语港 发表时间:2010-03-19 浏览:5239

菜根譚(さいこんたん)  洪自誠(こうじせい)

  1. 棲守道徳者、寂寞一時、依阿権勢者、凄涼万古、
    達人観物外之物、思身後之身、寧受一時之寂寞、毋取万古之凄涼

    道徳に棲守(せいしゅ)するは、一時に寂寞(じゃくばく)たり、
    権勢に依阿(いあ)するは、万古(ばんこ)に凄涼(せいりょう)たり
    達人は物外の物を観(み)、身後の身を思う、
    むしろ一時の寂寞を受くるも、万古の凄涼を取ることなかれ

    道を守って生きれば、一時(いっとき)孤立する。
    権力にへつらえば居心地は良いが、その後に永遠の孤独が襲ってくる。
    めざめた人は、現世の栄達、物欲に惑わされず、理想に生きる。
    一時の孤立を恐れて永遠の孤独を招くな。

  2. 君子与練達、不若朴魯、与其曲謹、不若疎狂

    君子は練達ならんよりは、朴魯(ぼくろ)なるにしかず、
    その曲謹ならんよりは、疎狂(そきょう)なるにしかず

    万事に如才(じょさい)ないよりは、いくらか間が抜けているほうが、
    また、ばかていねいよりは、一本気でぶしつけ、ぶっきらぼうの方が人間として信用できる。

  3. 君子之心事、天青日白、不可使人不知、
    君子之才華、玉韜珠蔵、不可使人易知

    君子の心事は、天青く日白く、人をして知らざらしむべからず、
    君子の才華は、玉韜(つつ)まれ珠蔵(かく)れ、人をして知りやすからしむべからず

    君子の信条、志しは、やましいところがなく、事に当たって人々に広く知らしめることができる。
    君子の才能は、奥深く秘めて、人々に容易に知らせることはない。

  4. 勢利紛華、不近者為潔、近之而不染者為尤潔、
    智械機巧、不知者為高、知之而不用者為尤高

    勢利紛華(せいりふんか)は、近づかざるものを潔(いさぎよ)しとなす、
    これに近づきて而(しか)も染まざるものを尤(もっと)も潔しとなす、
    智械機巧(ちかいきこう)は、知らざるものを高しとなす、
    これを知りて而も用いざるものを尤も高しとなす

    富貴の人に近づこうとしないのは潔癖ではある。
    だが、近づいてもその影響に染まらないのが本当の潔癖というものだ。
    世の中の手練手管など知らないほうがよろしい。
    しかし、それを知りながらも用いようとしないのが本当の人格者だ。

  5. 耳中常聞逆耳之言、心中常有払心之事、纔是進徳修行的砥石、
    若言言悦耳、事事快心、便把此生埋在鴆毒中矣

    耳中常に耳に逆らうの言を聞き、心中常に心に払(もと)るの事あれば、
    わずかにこれ徳に進み行ないを修むるの砥石(しせき)なり、
    もし言々耳を悦(よろこ)ばし、事々心に快ければ、すなわち、
    この生を把(と)りて鴆毒(ちんどく)のうちに埋在(まいざい)せん

    耳に入るのは耳の痛い言葉ばかり、
    することなすこと思うようにいかないという状態の中でこそ、人間は磨かれる。
    耳に入るのは甘いお世辞ばかり、何事も思いのままという環境ならば、
    知らぬまに猛毒に侵されて一生を台無しにするだろう。

  6. 天地不可一日無和気、人心不可一日無喜神

    天地に一日も和気なかるべからず、人心に一日も喜神なかるべからず

    自然には温かい太陽が欠かせない。人々の心にも喜びの心が欠かせない。

  7. 間時要有喫緊的心思、忙処要有悠間的趣味

    間時(かんじ)に喫緊(きつきん)の心思(しんし)あるを要し、
    忙処(ぼうしょ)に悠間(ゆうかん)の趣味あるを要す

    暇なときにも気を張った心持ちをし、忙しいさなかにもゆとりを持つ

  8. 夜深人静、独坐観心、始覚妄窮而真独露、毎於此中、得大機趣

    夜深く人静かなるとき、独り坐して心を観ずれば、
    始めて妄(もう)窮(きわ)まりて、真(しん)独り露(あら)わるるを覚ゆ、
    つねにこのうちにおいて、大機趣(だいきしゅ)を得(う)

    夜深く人も静まったとき、座禅を組んで自分自身の心を観れば、
    妄想が消え真実の物事が現れてくる。この中から、前進への意欲と自信が得られるのだ。

  9. 恩裡由来生害、故快意時、須早回頭、
    敗後反成功、故払心処、莫便放手

    恩裡由来(おんりゆらい)害を生ず、
    故に快意(かいい)の時、すべからく早く頭(こうべ)を回(めぐ)らすべし、
    敗後(はいご)あるいは反(かえ)って功を成す、
    故に払心(ふっしん)の処(ところ)、すなわち手を放つことなかれ

    うまいことづくめのとき、えてして思わぬアクシデントに見舞われる。
    だから調子の良いときこそ、いいかげんなところで手を引いた方が良い。
    手も足も出ない逆境の果てに、案外、一条の道が開けることがある。
    だから思いどおりにならぬからと、やけを起こして投げ出すものではない。

  10. 面前的田地、要放得、使人無不平之歎、
    身後的恵沢、要流得久、使人有不匱之思

    面前の田地は、放ち得て(ひろ)きを要し、人をして不平の歎(たん)なからしむ、
    身後の恵沢は、流し得て久しきを要し、人をして不匱(ふき)の思いあらしむ

    この世に生きているうちは、できるだけ寛容の心で人に接し、不満の心を抱かせないようにしたい。
    世を去ったのちにも、できるだけ多くの恩恵を残して、人々に満足の心を持ってもらいたいものだ。

  11. 径路窄処、留一歩与人行、滋味濃的、減三分譲人嗜

    径路窄(せま)き処は、一歩を留(と)めて人の行くに与え、
    滋味濃(こまや)かなるものは、三分を減じて人の嗜(たしな)むに譲る。

    せまい道では足をとどめて「お先にどうぞ」、おいしい食べ物は「おひとつどうぞ」

  12. 擺脱得俗情、便入名流、減除得物累、便超聖境

    俗情を擺脱(はいだつ)し得れば、すなわち名流に入る、
    物累を減除し得れば、すなわち聖境を超ゆ

    くだらぬ欲望を捨て去る事ができれば、人格の向上ができる。
    つまらぬ雑事にとらわれなければ、すぐれた人物となることができる。

  13. 交友須帯三分侠気、作人要存一点素心

    友に交わるにはすべからく三分の侠気を帯ぶべし、
    人となるには一点の素心を存するを要す

    友として交際するにからには、ひと肌脱ぐ心意気を持たねばならない、
    その為には、純真な心を持つ事が必要である。

  14. 寵利毋居人前、徳業毋落人後

    寵利(ちょうり)は人の前に居ることなかれ、
    徳業は人の後に落つることなかれ

    名誉、利益が得られるときは、できるだけ後ろの方に引っ込んで遠慮せよ。
    人の為になる仕事なら尻ごみせずに率先して力を尽くせ。

  15. 処世譲一歩為高、待人一分是福

    世に処するには一歩を譲るを高しとなす、
    人を待つには一分をにするはこれ福なり

    一歩下がることが、さらに前進するための土台となる。
    人のためを考えることが自分に利益をもたらす基礎となる。

  16. 蓋世功労、当不得一個矜字、弥天罪過、当不得一個悔字

    世を蓋(おお)うの功労も、一個の矜(きょう)の字に当たり得ず、
    天に弥(わた)るの罪過も、一個の悔の字に当たり得ず

    天下に鳴り響くほどの功績を立てても、それを鼻にかければ何の値打ちもなくなってしまう。
    天の神の怒りを買うほどの罪を犯しても、心からそれを反省すれば、罪は残らず消え去ってしまう。

  17. 完名美節、不宜独任、辱行汚名、不宜全推

    完名美節(かんめいびせつ)は、よろしく独り任ずべからず、
    辱行汚名(じょくこうおめい)は、よろしく全く推(お)すべからず

    功績や名声は独り占めにするものではない。失敗や汚名をすべて他人にかぶせてはならぬ。

  18. 若業必求満、功必求盈者、不生内変必召外憂

    もし業は必ず満を求め、功は必ず盈(えい)を求むれば、
    内変を生ぜざれば必ず外憂を召(まね)かん

    完璧主義は、内変もしくは外憂を招く。

  19. 人能誠心和気、愉色婉言、使父母兄弟間、
    形骸両釈、意気交流、勝於調息観心万倍矣

    人よく誠心和気、愉色婉言(ゆしょくえんげん)、父母兄弟の間(あいだ)をして、
    形骸(けいがい)ふたつながら釈(と)け、意気こもごも流れしめば、
    調息観心(ちょうそくかんしん)に勝(まさ)ること万倍なり

    一家中が誠実に、平和に、表情も言葉も穏やかに、心をひとつにとけ合わせて暮らしていくならば、
    その功徳は、むずかしい座禅の修行よりもはるかにまさっている。

  20. 好動者雲電風灯、嗜寂者死灰槁木、須定雲止水中、有鳶飛魚躍気象

    動を好むは雲電風灯(うんでんふうとう)、寂(せき)を嗜(たしな)む死灰槁木(しかいこうぼく)、
    すべからく定雲止水(ていうんしすい)の中に、鳶(とび)飛び魚躍るの気象あるべし

    むやみと動き回ってばかりいては、雲間の稲妻か風に吹かれる灯火のように、
    落ち着きというものがまるでなくなる。といって、静寂ばかりを愛していては、
    冷えきった灰か枯れ木のように、生気が失われてしまう。
    動かぬ雲の間を鳶が舞い、静かな水の中に魚が躍るように、
    静と動がひとつに融け合った境地こそ望ましいものだ。

  21. 攻人之悪、毋太厳、要思其堪受、教人以善、毋過高、当使其可従

    人の悪を攻むるは、太(はなは)だ厳なることなかれ、
    その受くるに堪えんことを思うを要す、
    人に教うるに善をもってするは、高きに過ぐることなかれ、
    まさにそれをして従うべからしむべし

    人の過ちを批判するときには、厳しすぎてはならない。
    相手がそれを受け入れられるかを考えるべきである。
    人を指導するときにも、目標が高すぎてはならない。
    従うことのできる目標を与えるべきである。

  22. 糞虫至穢、変為蝉而飲露於秋風、腐草無光、化為蛍而耀采於夏月

    糞虫は至穢(しあい)なるも、変じて蝉となりて露を秋風に飲む、
    腐草は光なきも、化して蛍となり采(さい)を夏月に耀(かがやか)す

    汚らしいゴミの中から湧いた虫がセミとなって高らかに歌い、
    腐った草からはホタルが生まれて夏の夜空に光をともす
    (のを見れば、外見にとらわれてものごとの本質を見失うのが、どれほど愚かなことかわかるだろう。)
    (科学知識が未発達だった時代には「化生」といって、無生物が生物となると広く信じられていた。)

  23. 矜高居傲、無非客気、降伏得客気下、而後正気伸、
    情欲意識、尽属妄心、消殺得妄心尽、而後真心現

    矜高居傲(きょうこうきょごう)は、客気(かくき)にあらざるはなし、
    客気を降伏し得(え)下(くだ)して、後に正気伸ぶ、
    情欲意識は、尽(ことごと)く妄心(ぼうしん)に属す、
    妄心を消殺し得尽くして、後に真心現わる

    誤った自信、思い上がりを捨て、謙虚に自分を見つめてこそ、本当の自信が出てくる。
    とらわれた常識を捨て虚心になってこそ、本当の心をつかめるのだ。
    (「矜高居傲」とは、のぼせあがって他人を見下し、なんでもできると思いこんでいる状態、
     「情欲意識」とは、とらわれた先入観、思いこみの意。)

  24. 飽後思味、則濃淡之境都消、色後思婬、則男女之見尽絶

    飽後(ほうご)に味(あじわ)いを思えば、濃淡の境すべて消え、
    色後(しきご)に婬(いん)を思えば、男女の見(けん)尽(ことごと)く絶ゆ

    満腹になった後には、味わいの微妙な違いなどわからない。
    情事が終わった後には、情欲も消え去ってしまう。

  25. 処世不必邀功、無過便是功、与人不求感徳、無怨便是徳

    世に処しては必ずしも功を邀(もと)めざれ、過ちなきはすなわちこれ功なり、
    人に与えて徳に感ずることを求めざれ、怨みなきはすなわちこれ徳なり

    社会生活においては、無理に功績を上げようと努めることはない。
    失敗を犯さなければ、それが立派な功績である。
    対人関係においては、強いて恩を施して感謝されようと思うな。
    人から怨みを受けずにすめば、それが人に感謝されることなのだ。

  26. 憂勤是美徳、太苦則無以適性怡情、
    澹白是高風、太枯則無以済人利物

    憂勤(ゆうきん)はこれ美徳なれども、
    太(はなは)だ苦しめば以って性に適(かな)い情を怡(よろこ)ばしむることなし、
    澹白(たんぱく)はこれ高風なれども、
    太だ枯るれば以って人を済(すく)い物を利することなし

    使命感に燃えて頑張るのは美徳であろう。
    しかし、度が過ぎれば、まわりは息が詰まってくる。
    ものごとにとらわれず、悠々自適にすごすのも良い。
    しかし、これまた度が過ぎれば、相談するのにとりつく島もないではないか。

  27. 事窮勢蹙之人、当原其初心、功成行満之士、要観其末路

    事窮(きわ)まり勢い蹙(ちぢ)まるの人は、まさにその初心を原(たず)ぬべし、
    功成り行ない満つるの士は、その末路を観ることを要す

    行き詰まった時には、出発点に引き返す勇気が必要であり、
    ひとまず目的を達成したら、切り上げどきを考える勇気が必要である。

  28. 富貴家宜厚、而反忌刻、是富貴而貧賤其行矣、如何能享

    富貴の家はよろしく厚なるべくして、反(かえ)って忌刻(きこく)なり、
    これ富貴にしてその行ないを貧賤にするなり、いかんぞよく享(う)けん

    恵まれた環境にある人は、心が豊かで温かくあるべきなのに、かえって、疑い深くて不人情である。
    物質的には豊かでも、心は貧しく卑しいためだ。

  29. 居卑而後知登高之為危、処晦而後知向明之太露

    卑(ひく)きに居(お)りて後に高きに登るの危うきを知る、
    晦(くら)きに処(お)りて後に明るきに向うの太(はなは)だ露(あら)わるるを知る

    身分の低いところにいてこそ、将来高い身分になったときの危うさがわかる。
    暗いところにいてこそ、明るいところで全ての物が見通せることがわかる。

  30. 守静而後知好物之過労、養黙而後知多言之為躁

    静を守りて後に動を好むの労に過ぐるを知る、
    黙を養いて後に多言の躁(そう)たるを知る

    静かなる時を持つとひっきりなしに動き回るのが無駄なことであることがわかる。
    沈黙の時を持てば、多弁がうるさすぎることがわかる。

  31. 放得功名富貴之心下、便可脱凡、
    放得道徳仁義之心下、纔可入聖

    功名富貴の心を放ち得下(くだ)して、すなわち凡を脱すべし、
    道徳仁義の心を放ち得下して、わずかに聖に入るべし

    名声、富、地位、それらに執着する心を洗い流すことができれば、
    俗物の境地を脱出できたといえる。
    道徳や仁義にこだわらず、天地とともにありのままに生きる境地に達したとき、
    聖人の域に達したといえる。

  32. 待小人、不難於厳、而難於不悪、
    待君子、不難於恭、而難於有礼

    小人を待つは、厳に難(かた)からずして、悪(にく)まざるに難し、
    君子を待つは恭、(きょう)に難からずして、礼あるに難し

    くだらぬ人物に対して厳しく接するのはたやすいが、愛情を失わずに接するのは難しい。
    すぐれた人物に対しては、うやうやしく接するのはやさしいが、卑屈にならずに礼節を守るのは難しい。

  33. 降魔者、先降自心、心伏則群魔退聴、
    駆横者、先駆此気、気平則外横不侵

    魔を降(くだ)すには、まず自心を降す、心(こころ)伏(ふく)すれば、群魔退き聴く、
    横(おう)を駆(ぎょ)するには、まずこの気を駆す、気平(たい)らかなれば、外横侵さず

    まず、みずからの心に打ち勝とう。そうすれば、どんな誘惑でも退散するだろう。
    まず、みずからの心をコントロールしよう。そうすれば、どんな妨害もつけ入ることはできない。

  34. 念頭濃者自待厚、待人亦厚、処処皆濃、
    念頭淡者自待薄、待人亦薄、事々皆淡

    念頭濃やかなるは自ら待つこと厚く、人を待つこともまた厚く、処々みな濃やかなり、
    念頭淡きは、自ら待つこと薄く、人を待つこともまた薄く、事々みな淡し

    自分を大切にし、人にも至れ尽くせりで万事に行き届き親切すぎる人は、
    とかく相手の立場を考えずに、ありがた迷惑な善意の押しつけをしがちだ。
    自分のことは一向にかまわず、人のことにも無関心な人は、あまりに淡々としすぎている。

  35. 彼富我仁、彼爵我義、君子固不為君相所牢籠

    かれは富、われは仁、かれは爵、われは義、
    君子もとより君相(くんしょう)のために牢籠(ろうろう)せられず

    富によって屈服を迫る者に対しては、仁によって対抗しよう。
    権勢によって支配しようとする者に対しては、義によって対抗しよう。
    君子たるもの、支配者の思うままにはならない。

  36. 立身不高一歩立、如塵裡振衣、泥中濯足、如何超達、
    処世不退一歩処、如飛蛾投燭、羝羊触藩、如何安楽

    身を立つるには一歩を高くして立たずんば、
    塵裡(じんり)に衣を振るい、泥中に足をあら濯うがごとし、いかんぞ超達せん、
    世に処するに一歩を退いて処(お)らずんば、
    飛蛾(ひが)の燭(しょく)に投じ、羝羊(ていよう)の藩(まがき)に触れるがごとし、
    いかんぞ安楽ならん

    自己の向上を図るならば、周囲より一段高い理想をめざすことだ。
    さもなければ、塵の中で着物を払い、泥水で足を洗うようなもの、人格の成長は望めない。
    社会生活にあっては、足どりは慎重にし、人より一歩遅れるほどがちょうどよい。
    さもなければ光を求める蛾が火の中に飛び込んだり、盲進した牡羊が垣根に角を引っかけて
    進退きわまるような結末となろう。

  37. 如修徳而留意於事功名誉、必無実詣、
    読書而寄興於吟詠風雅、定不深心

    もし徳を修めて意を事功名誉に留(とど)むれば、必ず実詣(じっけい)なし、
    書を読みて興を吟詠風雅に寄すれば、定めて深心ならず

    人格の修養を目指しながら、一方で功績や名声にあこがれるようでは、向上はおぼつかない。
    学問を学んでも得た教養を風流ごとの楽しみばかり用いていては、神髄を体得できない。

  38. 福莫福於少事、禍莫禍於多心、
    唯苦事者、方知少事之為福、
    唯平心者、始知多心之為禍

    福は事少なきより福なるはなく、禍(わざわい)は心多きより禍なるはなし、
    ただ事に苦しむものは、まさに事少なきの福たるを知る、
    ただ心を平らかにするものは、始めて心多きの禍いたるを知る

    幸福と言えば、わずらわしい出来事が少ない事にまさる幸福はない。
    不幸と言えば、欲望が多い事にまさる不幸はない。
    いろいろな事で苦労をしたあげくに、面倒が少ないことの幸福を悟り、
    心を平穏にすることができて、初めて欲望が多い事の不幸を悟る。

  39. 処治世宜方、処乱世宜円、処叔季世、当方円並用

    治世に処してはよろしく方なるべく、乱世に処してはよろしく円なるべく、
    叔季(しゅくき)の世に処してはまさに方円並び用うべし

    正しい秩序が確立した時代には、姿勢を正して生きよ。秩序が乱れた時代には柔軟に生きよ。
    混沌とした末世には、正しい姿勢を保ちつつも柔軟な対応を忘れるな。

  40. 我有功於人不可念、而過則不可不念、
    人有恩於我不可忘、而怨則不可不忘

    われ、人に功あるも念(おも)うべからず、而(しか)して過ちはすなわち念わざるべからず、
    人、われに恩あらば忘るべからず、而して怨みはすなわち忘れざるべからず

    自分が与えた恩は忘れよ、犯した過ちは忘れるな。
    受けた恩は忘れるな、受けた怨みは忘れ去れ。

  41. 施恩者、内不見己、外不見人、即斗粟可当万鐘之恵、
    利物者、計己之施、責人之報、雖百鎰難成一文之功

    恩を施すには、内、おのれ己を見ず、外、人を見ざれば、
    すなわち斗粟(とぞく)も万鐘(ばんしょう)の恵(けい)に当つべし、
    物を利するには、己の施しを計り、人の報いを責むれば、
    百鎰(ひゃくいつ)といえども一文の功を成しがたし

    人に恩を与えるにあたって、自分の行いの美しさを意識せず、
    人々の感謝や賞賛を期待しないようであれば、わずかあわ粟一斗の施しでも何万石もの価値がある。
    それに反して、人に施すことによって自分の利益を図ったり、見返りを期待するとしたら、
    何万両の金を与えても、ビタ一文の価値もない。

  42. 人之際遇、有斉有不斉、而能使己独斉乎、
    己之情理、有順有不順、而能使人皆順乎

    人の際遇(さいぐう)は、斉(ひと)しきあり斉しからざるあり、
    而(しこう)してよく己をして独り斉しからめんや、
    己の情理は、順なるあり順ならざるあり、而してよく人をしてみな順ならしめんや

    人が置かれている環境条件は、いろいろであり、
    自分が人並みであるという線など、どこにも引けるものではない。
    また、自分自身の気持ちにしても、機嫌の良いときも有れば悪いときもある。
    他人も同じであり、機嫌良く接してくれるのをいつも期待する方が間違っている。

  43. 見一善行竊以済私、聞一善言仮以覆短

    一の善行を見ては竊(ぬす)みてもって私を済(な)し、
    一の善言を聞いては仮りてもって短を覆う

    古人の善行や名言を、自分の欲望を遂げるヒントにしたり、
    よからぬ行為を合理化する口実にする。

  44. 能者労而府怨、何如拙者逸而全真

    能者は労して而も怨みを府(あつ)む、何ぞ拙者の逸にして真を全うするにしかん

    能力のある者は忙しく追い回されるが、陰で日の当たらない大勢の人たちからの怨みを買っている。
    特別とりえのない者は気楽なもので、置かれた条件に甘んじて、
    誰からも怨まれたり羨まれたりすることなく、一生を終えることができる。

  45. 人心有一部真文章、都被残編断簡封錮了、
    有一部真鼓吹、都被妖歌艶舞湮没了

    人心に一部の真文章あり、すべて残編断簡(ざんぺんだんかん)に封錮(ふうこ)されおわる、
    一部の真鼓吹(しんこすい)あり、すべて妖歌艶舞(ようかえんぶ)に(湮没いんぼつ)されおわる。

    すべての人の心の底には、必ず真の文章、すなわち生まれながらの理性が備わっている。
    だが、多くの場合、それらはがらくたのような知識のかけらに覆われて、その真価を発揮していない。
    すべての人の心の奥には、必ず真の音楽、すなわち天から授かった感性が備わっている。
    だが、たいていそれは、怪しげな芸術によってかき曇らされている。

  46. 富貴名誉、自道徳来者、如山林中花、自是舒徐繁衍、
    自功業来者、如盆檻中花、便有遷徙廃興、
    若以権力得者、如瓶鉢中花、其根不植、其萎可立而待矣

    富貴名誉の、道徳より来たるは、山林中の花のごとし、おのずから舒徐繁衍(じょじょはんえん)す、
    功業より来たるは、盆檻(ぼんかん)中の花のごとし、すなわち遷徙廃興(せんしはいこう)あり、
    もし権力をもって得るは、瓶鉢(へいよう)中の花のごとし、
    その根植えざれば、その萎(しぼ)むこと立ちて待つべし

    すぐれた人格によって得た地位名誉は山野に咲く花。放っておいても伸び伸び栄える。
    功績によって得た地位名誉は鉢植えの花。ご主人の一存で植えかえられたり捨てられたり。
    権力にとり入って得た地位名誉は花瓶にさした花。見ているうちにたちまちしおれる。

  47. 士君子幸列頭角、復遇温飽、
    不思立好言行好事、雖是在世百年、恰似未生一日

    士君子、幸いに頭角に列し、また温飽(おんぽう)に遇(あ)う、
    好言を立て好事を行なうことを思わざれば、これ世にあること百年なりといえども、
    あたかもいまだ一日も生きざるに似たり

    人にとっての春とは、幸いにも選ばれて高い社会的地位に昇り、豊かな生活を保証されたときだ。
    だが、そのような恵まれた立場にありながら、すぐれた発言、立派な行動によって
    自らの責任を果たそうとしなければ、たとえこの世に百年生きていようとも、
    一日も生きたことにならない。

  48. 真廉無廉名、立名者正所以為貪、
    大巧無巧術、用術者乃所以為拙

    真廉(しんれん)は廉名なし、名を立つるはまさに貪(どん)となすゆえんなり、
    大巧は巧術なし、術を用うるはすなわち拙とするゆえんなり

    本当に潔癖な人というものは、そのような評判を立てられることはない。
    しきりと潔癖を売り物にするのは、実は名誉欲の強い人なのだ。
    最高のわざを身につけた人は、小手先細工はしない。
    器用さをひけらかすのは未熟者の証拠である。

  49. 欹器以満覆、撲満以空全

    欹器(いき)は満をもって覆(くつが)えり、撲満(ぼくまん)は空をもって全し

    欹器はいっぱいになるとひっくり返るし、
    撲満(貯金玉)は空であるから存在することができる。

  50. 名根未抜者、縦軽千乗甘一瓢、総墜塵情、
    客気未融者、雖沢四海利万世、終為剰技

    名根(めいこん)いまだ抜けざるは、
    たとえ千乗を軽んじ一瓢甘んずるも、すべて塵情にお墜つ、
    客気(かっき)いまだと融けざるは、
    四海をたく沢し万世を利すといえども、ついに剰技(じょうぎ)となる

    何万石もの地位に見向きもせず清貧に甘んじているように見えても、
    心の底にまだ名誉心が残っているうちは、ただの俗物根性だ。
    天下に恵みを垂れ、後世にまで功績を遺しても、
    それが功名心から出たものならば、野心を遂げるための手段にすぎない。

  51. 人知名位為楽、不知無名無位之楽為最真、
    人知饑寒為憂、不知不饑不寒之憂為更甚

    人は名位の楽しみたるを知り、名なく位なきの楽しみの最も真たるを知らず、
    人は饑寒(きかん)の憂いたるを知りて、
    饑(う)えず寒(こご)えざるの憂いのさらに甚(はなはだ)しきを知らず

    人は知名度と高い地位を得ることの楽しさを知っているが、
    名も知られず地位もない者こそが本当に楽しめることを知らない。
    人は食べ物にも住む家にもことかく生活の不安を知っているが、
    それらが満たされた中での不安や悩みがもっと深刻であることを知らない。

  52. 為悪而畏人知、悪中猶有善路、為善而急人知、善処即是悪根

    悪をなして人の知らんことを畏るるは、悪中なお善路あり、
    善をなして人の知らんことを急ぐは、善処(ぜんしょ)すなわち悪根なり

    悪事を働いても、それが暴露するのを恐れているようであれば、
    まだ一片の良心を抱いているといえる。
    善行を積んでも、それが早く人に知られればよいと願っているようでは、
    善行の中に悪の芽が潜んでいる。

  53. 一苦一楽相磨練、練極而成福者、其福始久、
    一疑一信相参勘、勘極而成知者、其知始真

    一苦一楽、相磨練し、練極まりて福を成すは、その福始めて久し、
    一疑一信、相参勘し、勘極まりて知を成すは、その知始めて真なり

    あるときは喜び、あるときは苦しむ修行をし尽くした上で得た幸福であれば、いつまでも永続する。
    あるときは疑い、あるときは信ずる検討、追究の果てに得た認識であれば、それは初めて真実と言える。

  54. 心不可不虚、虚則義理来居、心不可不実、実則物欲不入

    心は虚ならざるべからず、虚なれば義理来たり居る、
    心は実ならざるべからず、実なれば物欲入らず

    人の心に雑念がなければ、正義感と理性がそこに育つ。
    人の心が理想に満ちていれば、欲望が入る隙がない。

  55. 泛駕之馬、可就駆馳、躍冶之金、終帰型範、
    只一優游不振、便終身無個進歩

    泛駕(はんが)の馬も駆馳(くち)に就(つ)くべし、
    躍冶(やくや)の金もついに型範(けいはん)に帰す、
    ただ一に優游(ゆうゆう)して振わざるは、すなわち終身、個の進歩なし

    暴れ馬も調教次第で立派に乗りこなせるようになる。
    鋳型からとび出す金もやがては型に納まる。
    手に負えぬような人物も、のちにはけっこうものの役に立つものだ。
    これに反して、手数はかけぬかわりに、何の意欲もみせず、
    のんべんだらりと日を送るような人物は、一生かかっても何の進歩も期待できない。

  56. 人只一念貪私、便銷剛為柔、塞智為昏、
    変恩為惨、染潔為汚、壊了一生人品

    人はただ一念貪私(どんし)なれば、
    すなわち剛を銷(しょう)して柔となし、智を塞(ふさ)ぎて昏(こん)となし、
    恩を変じて惨となし、潔を染めて汚となし、一生の人品を壊(こわ)し了(おわ)る

    人というものは、激しい欲望で頭がいっぱいになっている状態では、
    強固な意志は骨抜きとなり、澄んだ理性は曇り、愛情は残酷に変わり、
    潔癖が恥知らずとなり、人格の全てが台無しになってしまう。

  57. 耳目見聞為外賊、情欲意識為内賊、
    只是主人翁、惺々不昧、独坐中堂、賊便化家人矣

    耳目見聞は外賊たり、情欲意識は内賊たり、
    ただこれ主人翁、惺々不昧(せいせいふまい)にして、中堂に独坐せば、
    賊すなわち化して家人とならん

    心をそそる外界のさまざまな刺激は、外からわが心中をうかがう賊であり、
    胸中にたえず湧き起こる欲望や偏見は、中からわが心を惑わす賊である。
    だが、何物にも動かされぬ本心が、どっかと中心に坐っている限り、
    さまざまな刺激は、かえって私の成長を助けてくれるに違いない。

  58. 風来疎竹、風過而竹不留声、雁度寒潭、雁去而潭不留影

    風、疎竹に来たる、風過ぎて竹に声を留(とど)めず、
    雁、寒潭(かんたん)を度(わた)る、雁去りて潭(ふち)に影を留めず

    竹の葉はそよ風に鳴り、風過ぎて竹に声なし。
    飛ぶ雁は淵をわたれど、去りし後、影をのこさず。

  59. 貧家浄払地、貧女浄梳頭、景色雖不艶麗、気度自是風雅

    貧家も浄(きよ)く地を払い、貧女も浄く頭(こうべ)を梳(くしけず)れば、
    景色(けいしょく)艶麗ならずといえども、気度(きど)おのずからこれ風雅

    あばら家の庭もさっぱりと掃き清められ、貧しい娘もきちんと髪をとかしていれば、
    華やかさこそないものの、どこか風雅な趣が感じられるものである。

  60. 間中不放過、忙処有受用、
    静中不落空、動処有受用、
    暗中不欺隠、明処有受用

    間中に放過せざれば、忙処に受用あり、
    静中に落空せざれば、動処に受用あり、
    暗中に欺隠(きいん)せざれば、明処に受用あり

    ひまだからといって無駄に過ごすことがなければ、その効用が忙しいときに現れてくる。
    何事もないときにぼんやりしていなければ、その効用が活動するときに現れてくる。
    人目の届かぬところで良心を偽らなければ、その効用が公の場で現れてくる。

  61. 舎己毋処其疑、処其疑、即所舎之志多愧矣、
    施人毋責其報、責其報、併所施之心倶非矣

    己を舎(す)ててはその疑いに処することなかれ、
    その疑いに処すれば、すなわち舎つるところの志、多くは愧ず、
    人に施してはその報を責むることなかれ、
    その報を責むれば、併せて施すところの心もともに非なり

    自分を犠牲とする決意をしたからには、利害打算の迷いをいっさい捨てよう。
    人のために身を捨てようと思いながら、なおも迷っていたのでは、最初の決意に対しても恥ずかしいことだ。
    人に恩を施すからには、それに対する見返りを期待してはならない。
    もし報酬を求めるようであれば、最初の動機までが不純であったことになる。

  62. 平民肯種徳施恵、便是無位的公相、士夫徒貪権市寵、竟成有爵的乞人

    平民も肯(がえん)じて徳をう種え恵みを施さば、すなわちこれ無位の公相なり、
    士夫もいたずらに権を貪(むさぼ)り寵を市(う)らば、ついに有爵の乞人(こつじん)となる

    人格を磨き、社会への奉仕に努めれば、たとえ身分は低かろうと王侯貴族にもまさる人だ。
    権威をかさに着たり、恩を売って人を買収しようとしたりすれば、高位高官にあっても乞食同然の人だ。

  63. 君子而詐善、無異小人之肆悪、君子而改節、不及小人之自新

    君子にして善を詐(いつわ)るは、小人の悪を肆(ほしいまま)にするに異なることなし、
    君子にして節を改むるは、小人のみずから新たにするに及ばず

    道徳を売りものにする君子が偽善を働くのは、
    良心のない小人が勝手ほうだいに悪事を働くのと変わらない。
    理想をかかげる君子が変節するよりは、教養のない小人が反省して再出発するほうがよほどましである。

  64. 如春風解凍、如和気消氷、纔是家庭的型範

    春風の凍(こお)れるを解くがごとく、和気の氷を消すがごとくして、
    わずかにこれ家庭の型範(けいはん)なり

    穏やかな春風が氷を解かすように、自然と改めさせるのが、家庭における教育のあり方である。

  65. 生長富貴叢中的、嗜欲如猛火、権勢似烈焔、
    若不帯些清冷気味、其火焔不至焚人、必將自爍矣

    富貴の叢中(そうちゅう)に生長するは、
    嗜欲(しよく)、猛火のごとく、権勢は烈焔(れつえん)に似たり、
    もし些(さ)の清冷の気味を帯びざれば、
    その火焔、人を焚(た)くに至らざるも、必ずまさにみずからや爍かんとす

    富貴の家でわがままに育った者は、欲望の激しさは火のよう、権勢への執着は炎のようだ。
    いくらか頭を冷やして、さっぱりした気風を身につけないことには、
    欲望の火が、人を焼くことがなくとも、自分自身を焼き付くさないとは限らない。

  66. 文章倣到極処、無有他奇、只是恰好、人品倣到極処、無有他異、只是本然

    文章、極処に倣(た)し到れば、他の奇あることなし、ただこれ恰好、
    人品、極処に倣し到れば、他の異あることなし、ただこれ本然

    最高に完成された文章は、一向に奇抜なところがない。
    だが、言おうとすることをぴたりと言いあてているだけだ。
    最高の境地にまで達した人格者は、少しも変わったところがない。
    ただ、ありのままに生きているだけだ。

  67. 不責人小過、不発人陰私、不念人旧悪、三者可以養徳、亦可以遠害

    人の小過を責めず、人の陰私をあば発かず、人の旧悪を念(おも)わず、
    三者もって徳を養うべく、またもって害に遠ざかるべし

    他人に対しては小さな過失を責めない。個人的な秘密はそっとしておく。古傷は忘れてやる。
    この三つの心がけは、自分の人格の向上に役立つだけでなく、人の怨みを免れ、
    一身の安全を保つ道ともなるのだ。

  68. 公平正論不可犯手、一犯則貽羞万世、
    権門私竇不可着脚、一着則点汚終身

    公平正論は手を犯すべからず、ひとたび犯せば羞(はじ)を万世に貽(のこ)す、
    権門私竇(けんもんししょう)は脚を着くべからず、ひとたび着くれば、終身を点汚す

    誰の目からみても正当な意見に対しては、私情によって反対してはならない。
    ひとたびそのようなことをすれば末代までの恥となる。
    権力を乱用し、私腹を肥やす者に近づいてはならない。
    うっかりそのような者と交われば生涯の汚点となる。

  69. 曲意而使人喜、不若直躬而使人忌、
    無善而致人誉、不若無悪而致人毀

    意を曲げて人をして喜ばしむるは、躬(み)を直(なお)くして人をして忌ましむるにしかず、
    善なくして人の誉れを致すは、悪なくして人の毀(そし)りを致すにしかず

    自分の信念を曲げて人に気に入られるよりは、
    たとえ人から煙たがられようとも信念を貫きとおしたほうがましだ。
    何の善行もないのに人に誉めそやされるより、
    むしろ身に覚えのないことで人から非難された方が気分がよい。

  70. 小処不滲漏、暗中不欺隠、末路不怠荒、纔是個真正英雄

    小処に滲漏(しんろう)せず、暗中に欺隠(きいん)せず、
    末路に怠荒(たいこう)せず、わずかにこれ個の真正の英雄なり

    些細なことにも手抜きをしない。人目がなくともうしろ暗いことをしない。
    不遇になっても投げやりにならない。これだけのことができれば、それでもう立派な人物だ。

  71. 蔵巧於拙、用晦而明、寓清之濁、以屈爲伸

    巧を拙に蔵(かく)し、晦(かい)を用いて明らかにし、
    清の濁に寓(ぐう)し、屈をもって伸をなす

    無能をよそおって才能を隠し、愚鈍とみせかけて英知をみがき、
    俗界に身を置きながら節操を守り、身を低くして飛躍に備える。

  72. 衰颯的景象、就在盛満中、発生的機緘、則在零落内

    衰颯(すいさつ)の景象(けいしょう)は、すなわち盛満のうちにあり、
    発生の機緘(きかん)は、すなわち零落(れいらく)のうちにあり

    ものごとが下り坂となる兆候は、隆々たる発展の絶頂において早くも現れてくる。
    新しい成長への芽生えは、逆境のどん底の中から生じてくる。

  73. 驚奇喜異者、無遠大之識、苦節独行者、非恒久之操

    奇に驚き異を喜ぶは、遠大の識なく、苦節独行は、恒久の操にあらず

    目新しく風変わりなことばかりするのは、スケールが小さい証拠だ。
    自分一人だけ浮き上がって苦労しているようでは、決して長続きはしない。

  74. 毋偏信而爲奸所欺、毋自任而爲気所使、
    毋以己之長而形人之短、毋因己之拙而忌人之能

    偏信して奸の欺くところとなることなかれ、
    自任して気の使うところとなることなかれ、
    己の身をもって人の短を形(あら)わすことなかれ、
    己の拙によりて人の能を忌むことなかれ

    一部の意見を鵜呑みにして、よからぬ者にだまされるな。
    自信に任せて大役を引き受け、それに追われて自分を見失うな。
    自分の長所をかさにきて人の短所を責めるな。
    自分が無能だからといって人の能力をねたむな。

  75. 覚人之詐、不形於言、受人之侮、不動於色、
    此中有無窮意味、亦有無窮受用

    人の詐(いつわり)を覚(さと)るも、言(ことば)に形(あら)わさず、
    人の侮りを受くるも、色に動かさず、
    このうち無窮の意味あり、また無窮の受用あり

    人の嘘に気がついても、気づかぬふりをしてすましている。
    人が馬鹿にして見下しても、一向に平気な顔をしていられる。
    こうした態度には、尽きることのない価値があり、また限りない効用があるものだ。

  76. 害人之心不可有、防人之心不可無、此戒疎於慮也、
    寧受人之欺、毋逆人之詐、此警傷於察也、二語竝存、精明而渾厚矣

    人を害するの心はあるべからず、人を防ぐの心はなかるべからず、
    と、これ慮(おもんぱか)るに疎(うと)きを戒むるなり、
    むしろ人の欺きを受くるも、人の詐(いつわ)りを逆(むか)うることなかれ、
    と、これ察に傷(やぶ)るるを警(いま)しむるなり、
    二語ならび存すれば、精明にして渾厚(こんこう)ならん

    「人に害を加えようとの心を抱いてはならないが、
    人から害を受けないようにする心がけだけは必要だ。」という言葉がある。
    これは不用意のために災厄を受けることを戒めたものだ。
    「人からペテンにかけられたほうが、これはペテンではないかと人を疑うよりましだ。」という言葉がある。
    これはあまりにも人を信じようとしない態度を戒めたものである。
    この二つの教訓を統一して身につけ、実践することができれば、
    明確な判断力と、温かい人間性とを兼ね備えた人物となることができるだろう。

  77. 毋因群疑而阻独見、毋任己意而廃人言、
    毋私小恵而傷大体、毋借公論以快私情

    群疑に因りて独見を阻むことなかれ、
    己れの意に任せて人の言を廃することなかれ、
    小恵を私して大体を傷(やぶ)ることなかれ、
    公論を借りてもって私情を快くすることなかれ

    人々に受け入れられないからといって自分の意見を曲げてはならない。
    自分の偏狭な感情から人の意見を否定してはならない。
    自分の小さな打算から全体の利益を無視してはならない。
    個人の感情をはらすために世論の力を借りてはならない。

  78. 炎冷之態、富貴更甚於貧賤、妬忌之心、骨肉尤狠於外人

    炎冷(えんりょう)の態(てい)は、富貴さらに貧賤よりもはなはだしく、
    妬忌(とき)の心は、骨肉もっとも外人より狠(こん)なり

    愛と憎しみの感情は、富貴の者のほうが貧しい者よりさらに激しい。
    妬み嫌う心は、肉親同士のほうが、あかの他人よりよほど極端だ。

  79. 功過不容少混、混則人懐惰堕之心、
    恩仇不可大明、明則人起携弐之志

    功過(こうか)は少しも混ずべからず、混ずれば、人、惰堕(だだ)の心を懐(いだ)かん。
    恩仇(おんきゅう)は大いに明らかにすべからず、明らかにせば、人、携弐(けいじ)の志を起こさん。

    部下に対しては、その功績と過失とをあいまいにしてはならない。
    もし、それがあいまいにされれば、部下の心はだらけてしまうだろう。
    しかし、個人的な利害を受けたことによって部下を差別してはならない。
    もし、そうすれば、組織内の人間関係は四分五裂してしまう。

  80. 徳者才之主、才者徳之奴、有才無徳、
    如家無主而奴用事矣、幾何不魍魎猖狂

    徳は才の主、才は徳の奴なり、才ありて徳なきは、家に主なくして、奴、事を用うるがごとし、
    いかんぞ魍魎(もうりょう)にして猖狂(しょうきょう)せざらん

    人徳は主人、才能はその召使い、才能ばかりがあって人徳が備わっていなければ、
    主人のいない家で、召使いが勝手気ままにふるまっているのと同じ事だ。
    その人の心中は化け物の棲み家、果てもなく乱れ狂っていくのも無理はない。

  81. 鋤奸杜倖、要放他一条去路、若使之一無所容、譬如塞鼠穴者

    奸(かん)を鋤(す)き、倖(こう)を杜(ふせ)ぐには、他の一条の去路(きょろ)を放つを要す、
    もしこれをして一も容(い)るるところなからしめば、
    たとえば鼠穴を塞(ふさ)ぐもののごとし

    悪党や野心家を一掃するためには、一筋の逃げ道だけは空けておいたほうがよい。
    もし、どこにも逃げ場がないとすると、彼らは袋のネズミのような状態となって、
    苦し紛れに大切なものをかじりつくしてしまうからだ。

  82. 当与人同過、不当与人同功、同功則相忌、可与人共患難、
    不可与人共安楽、安楽則相仇

    まさに人と過ちを同じくすべし、まさに人と功を同じくすべからず、功を同じくすれば相忌む、
    人と患難をともにすべし、人と安楽をともにすべからず、安楽なれば相仇(あだ)とす

    失敗の責任は自分もとろう。しかし功績をあげた栄誉の仲間には入るな、
    功績を共有するのは仲互いのもとだ。
    苦労は人とともにしよう。しかし楽しみごとは人に譲ってしまったほうがよい。
    楽しみごとを共有すれば、ついには憎み合うようになる。

  83. 徳随量進、量由識長、
    故欲厚其徳、不可不弘其量、
    欲弘其量、不可不大其識

    徳は量に随(したが)って進み、量は識によって長ず、
    ゆえにその徳を厚くせんと欲せば、その量を弘くせざるべからず、
    その量を弘くせんと欲せば、その識を大にせざるべからず

    人の品性は、包容力が大きくなるにつれて向上し、包容力は、認識が深まるにつれて大きくなる。
    したがって、品性を向上させようとするならば、包容力を大きくすること、
    包容力を大きくしようとするならば、認識を深めていくことだ。

  84. 事業文章、随身銷毀、而精神万古如新、
    功名富貴、逐世転移、而気節千載一日、君子信不当以彼易此也

    事業文章は、身に随いて銷毀(しょうき)す、而して精神は万古新たなるがごとし、
    功名富貴は、世を逐(お)うて転移す、而して気節は千載一日なり、
    君子、まことにまさに彼をもって此に易(か)うべからず

    事業や学問というものは死ねばなくなるが、その精神は永遠に古くなることはない。
    地位や財産というものは時を経れば移り変わるが、その心意気は長く残っていく。
    人間まことにここの分別が大事である。

  85. 作人無点真懇念頭、便成個花子、事事皆虚、
    渉世無段円活機趣、便是個木人、処処有碍

    人となるに点の真懇念頭(しんこんねんとう)なければ、
    すなわち個の花子(かし)となり、事々みな虚なり、
    世を渉(わた)るに段の円活(えんかつ)機趣(きしゅ)なければ、
    すなわちこれ個の木人(ぼくじん)、処々碍(さわ)りあり

    人格の向上をめざすなら、真剣で誠実な心が必要だ。
    それがなければ、乞食同然で、何をしても魂が入らない。
    世間を渡るなら、円満な人間関係づくりを心がけよ。
    それがなければデクノボウ同然で、そこらじゅうにぶつかるばかりだ。

  86. 謝事当謝於正盛之時、居身宜居於独後之地

    事を謝(しゃ)するはまさに正盛の時に謝すべし、
    身を居(お)くはよろしく独後の地に居くべし

    地位を去って隠退するのは、わが身が全盛のときがよい。
    そして身を置くところは、人と競争せずにすむ場所にかぎる。

  87. 謹徳須謹於至微之事、施恩務施於不報之人

    徳を謹むは、すべからく至微の事を謹むべし、
    恩を施すは、つとめて報ぜざるの人に施せ

    人格の向上を図るなら、まず最も些細なことからきちんとすることだ。
    報いられることを期待しない善行を施そうとするならば、
    どう考えても見返りなどありそうもない対象、
    つまり最も苦しい立場におかれている人を相手とすればよろしい。

  88. 信人者、人未必尽誠、己則独誠矣、
    疑人者、人未必皆詐、己則先詐矣

    人を信ずるは、人いまだ必ずしも尽(ことごと)く誠ならざるも、己すなわち独り誠なり、
    人を疑うは、人いまだ必ずしもみな詐(いつわ)らざるも、己すなわちまず詐る

    人を信ずることができれば、たとえ相手の心が誠実でなく、
    だまされることがあろうとも、こちらは誠実を貫いたことになる。
    人を疑ってかかるならば、たとえ相手が正直であっても、こちらは偽りの心で接したことになる。

  89. 念頭寛厚的、如春風煦育、万物遭之而生、
    念頭忌刻的、如朔雪陰凝、万物遭之而死

    念頭寛厚なるは、春風の煦育(くいく)するがごとし、万物これに遭うて生ず、
    念頭忌刻(きこく)なるは、朔雪(さくせつ)の陰凝(いんぎょう)するがごとし、万物これに遭うて死す

    寛大で温かな心は、春風が万物を育てるように、すべてのものを成長させる。
    冷酷で疑い深い心は、真冬の雪が万物を凍りつかせるように、すべてのものを死滅させる。

  90. 為善不見其益、如草裡東瓜、自応暗長、
    為悪不見其損、如庭前春雪、当必潜消

    善をなしてその益を見ざるは、草裡(そうり)の東瓜(とうか)のごとし、おのずからまさに暗に長ずべし、
    悪をなしてその損を見ざるは、庭前の春雪のごとし、まさに必ず潜(ひそ)かに消ゆべし

    善行を積んでも成果が目に見えぬことがある。
    だが、草むらに隠れた瓜のように、それは知らぬ間に育っていく。
    悪事を働いて得たものが失われずにすむことがある。
    だが、庭先の雪のように、それはたちまち消えてしまう。

  91. 遇故旧之交、意気要愈新、
    処隠微之事、心跡宜愈顕、
    待衰朽之人、恩礼当愈隆

    故旧の交わりに遇いては、意気いよいよ新たなるを要す、
    隠微の事に処しては、心跡よろしくいよいよ顕わすべし、
    衰朽(すいきゅう)の人を待つには、恩礼まさにいよいよさか隆んにすべし

    昔なじみの人とは、ますます新鮮な気持ちで交わりを深めよう。
    人目につかぬことについては、少しもうしろ暗さのないよう心がけよう。
    落ち目になった人に対しては、とりわけ温かく接しよう。

  92. 能脱俗便是奇、作意尚奇者、不為奇自為異、
    不合汚便是清、絶俗求清者、不為清而為激

    よく俗を脱すればすなわちこれ奇、作意に奇を尚ぶは、奇とならずして異となる、
    汚に合せざればすなわちこれ清、俗を絶ちて清を求むるは、清とならずして激となる

    俗臭をなくしさえすれば、それだけでもはや非凡だ。
    無理に非凡を気取ろうとすれば、嫌味たっぷりな変人となってしまう。
    世間の汚れに染まらなければ、それでこそ清潔といえる。
    世間から離れて清潔を守ろうとすれば、ひとりぼっちのひねくれ者に終わる。

  93. 恩宜自淡而濃、先濃後淡者、人忘其恵、
    威宜厳而寛、先寛後厳者、人怨其酷

    恩はよろしく淡よりして濃なるべし、濃を先にし淡を後にするは、人その恵を忘る、
    威はよろしく厳よりして寛なるべし、寛を先にし厳を後にするは、人その酷を怨む

    恩恵を与えるには、最初はわずかにして、次第に手厚くするのがよい。
    初めは手厚くして、後にわずかにすれば、人は手厚くしてもらったことを忘れて不満に思う。
    規律を正すには、最初はきびしくして、次第にゆるめていくのがよい。
    初めにルーズにしておいて後から厳しくするならば、人は不当にむごく扱われたと感じて恨みを抱く。

  94. 我貴而人奉之、奉此峨冠大帯也、
    我賤而人侮之、侮此布衣草履也、
    然則原非奉我、我胡為喜、
    原非侮我、我胡為怒

    われ貴くして人これを奉ずるは、この峨冠大帯(がかんだいたい)を奉ずるなり、
    われ賤しくして人これを侮(あなど)るは、この布衣草履(ふいそうり)を侮るなり、
    然(しか)らば、もとわれを奉ずるにあらず、われなんぞ喜びをなさん、
    もとわれを侮るにあらず、われなんぞ怒りをなさん

    私を人々がたてまつ奉るのは、私の身分、地位、肩書きを奉っているにすぎない。
    私が貧しいのを人々が侮るのは、私の見かけを侮っているのだ。
    すなわち、私の人格を敬っているのではないのだから、なぜそんなことを喜ぼうか。
    わたしの人格をあざけっているのではないのだから、なぜそんなことを怒ろうか。

  95. 議事者、身在事外、宜悉利害之情、
    任事者、身居事中、当忘利害之慮

    事を議する者は、身は事の外にありて、よろしく利害の情を悉(ことごと)くすべし、
    事に任ずる者は、身は事の中に居りて、まさに利害の慮(おもんぱか)りを忘るべし

    ものごとを討論するときは客観的な立場に立って、
    当事者たちの利害得失を十分に考慮することが望ましい。
    ものごとの処理にあたるときは、実践の先頭に立って、
    その結果、自分にふりかかってくる利害得失はいっさい念頭におかないことだ。

  96. 標節義者、必以節義受謗、
    榜道学者、常因道学招尤

    節義を標する者は、必ず節義をもって謗(そし)りを受け、
    道学を榜(ぼう)する者は、常に道学によって尤(とが)めを招く

    主義を振り回せば、つまずいたときはその主義の名で非難される。
    道徳を看板にしていれば、過ちを犯したときは、その道徳の名で責められる。

  97. 誇逞功業、燿文章、靠皆是外物倣人、
    不知心体瑩然、本来不失、即無寸功隻字、亦自有堂堂正正倣人処

    功業に誇逞(こてい)し、文章を燿(げんよう)するは、みなこれ外物に靠(よ)りて人となるなり、
    知らず、心体瑩然(けいぜん)として、本来失わざれば、
    すなわち寸功隻字(すんこうせきじ)なきも、またおのずから堂々正々、人となるのところあるを

    功績を誇り、教養をひけらかして得意になっている連中は、
    すべてうわべの飾りもので人目をひいているにすぎない。
    たとえ何の功績もなく、いささかの教養もなくとも、人間本来の輝きを保っている人こそが、
    真に立派な人物だということを、彼らはとうてい理解することはできまい。

  98. 不昧己心、不尽人情、不竭物力、
    三者可以為天地立心、為生民立命、為子孫造福

    己れの心を昧(くら)まさず、人の情を尽くさず、物の力を竭(つ)くさず、
    三者、もって天地のために心を立て、生民のために命を立て、子孫のために福を造(な)すべし

    自分の心をごまかすな、人の好意にすがりきるな、限度をこした浪費や酷使をするな。
    この三つの心得を守ることによって、天地の神の心にかない、人民の安全を守り、
    子孫に幸福をもたらすことができる。

  99. 居官有二語、曰惟公則生明、惟廉則生威、
    居家有二語、曰惟恕則情平、惟倹則用足

    官に居るに二語あり、曰く「ただ公なれば明を生じ、ただ廉なれば威を生ず」、
    家に居るに二語あり、曰く「ただ恕(じょ)なれば情平らかに、ただ倹なれば用足る」

    役人にとって大切な言葉を二つあげよう。
    「公平を守れば正しい判断ができる」「潔白を守れば権威が生まれる」
    家庭生活の中で大切な言葉を二つあげよう。
    「寛大な心を保てば皆の心が穏やかとなる」「つましく暮らせば不自由はない」

  100. 処富貴之地、要知貧賤的痛癢、
    当少壮之時、須念衰老的辛酸

    富貴の地に処りては、貧賤の痛癢(つうよう)を知らんことを要し、
    少壮の時に当たっては、すべからく衰老(すいろう)の辛酸をおも念うべし

    財産、地位に恵まれているときにこそ、貧しく地位の低い人たちの苦しみを理解せよ。
    若く元気なときにこそ、老い衰えたときのつらさを考えよ。

  101. 持身不可太皎潔、一切汚辱垢穢、要茹納得、
    与人不可太分明、一切善悪賢愚、要包容得

    身を持するには、はなはだ皎潔(こうけつ)なるべからず、
    一切の汚辱垢穢(おじょくこうあい)、茹納(じょのう)し得んことを要す、
    人に与(くみ)するには、はなはだ分明(ぶんめい)なるべからず、
    一切の善悪賢愚、包容し得んことを要す

    世間を渡るのに、あまりに潔癖すぎる態度はよろしくない。
    いろいろな汚ないものをも腹の中に納めてしまう度量が必要だ。
    人とつきあうには、白か黒かレッテルを貼ってしまってはならない。
    善悪賢愚、さまざまな人たちを平等に受け入れる寛容さが望ましい。

  102. 休与小人仇讐、小人自有対頭、
    休向君子諂媚、君子原無私恵

    小人と仇讐(きゅうしゅう)することを休(や)めよ、小人おのずから対頭(たいとう)あり、
    君子に向かって諂媚(てんび)することを休めよ、君子もとより私恵(しけい)なし

    つまらぬ人間とムキになって争うな。彼らにはちゃんと、それ相応の対手がいるものだ。
    すぐれた人格者にこびへつらっても始まらぬ。こうした人はえこひいきなどしてくれないのだから。

  103. 縦欲之病可医、而執理之病難医、
    事物之障可除、而義理之障難除

    縦欲(しょうよく)の病いは医(いや)すべし、而して執理(しつり)の病いは医しがたし、
    事物の障(さわ)りは除くべし、而して義理の障りは除きがたし

    欲望の激しい人物は、まだなんとかなる。
    だが、理屈で凝り固まった人物はどうすることもできない。
    外的な障害に対しては手を打つことができる。
    だが、心の中がひん曲がっていてはどうにもならない。

  104. 寧為小人所忌毀、毋為小人所媚悦、
    寧為君子所責修、毋為君子所包容

    むしろ小人の忌毀するところとなるも、小人の媚悦するところとなることなかれ、
    むしろ君子の責修するところとなるも、君子の包容するところとなることなかれ

    つまらぬ人間からは嫌われたほうがよい。彼らから喜ばれるようになっては困りものだ。
    すぐれた人間からはきびしく責められたほうがよい。見放されて寛大にされるようではおしまいだ。

  105. 讒夫毀士、如寸雲蔽日、不久自明、
    媚子阿人、似隙風侵肌、不覚其損

    讒夫毀士(ざんぶきし)は、寸雲(すんうん)の日を蔽(おお)うがごとく、
    久しからずしておのずから明らかなり、
    媚子阿人(びしあじん)は、隙風(げきふう)の肌を侵(おか)すに似て、その損を覚えず

    悪口を言いふらされるのは、ちぎれ雲が日を隠すようなものだ。
    そのかげりは間もなく消えてしまう。
    おべっかでよい気分にされるのは、すき間風に吹かれるようなものだ。
    気づかぬうちにすっかり心を毒されてしまう。

  106. 日既暮而猶烟霞絢爛、歳将晩而更橙橘芳馨、
    故末路晩年、君子更宜精神百倍

    日すでに暮れてなお烟霞(えんか)絢爛(けんらん)たり、
    歳(とし)まさに晩(く)れんとしてさらに橙橘(とうきつ)芳馨(ほうけい)たり、
    ゆえに末路(まつろ)晩年は、君子さらによろしく精神百倍すべし

    日はすでに暮れてなお夕映えは光りかがやく。
    歳は終わろうとして柑橘はかぐわしく匂う。
    たとえ晩年となろうとも、君子はいっそう精神をふるい立たせ、最後を美しく全うしようではないか。

  107. 鷹立如睡、虎行似病、正是他攫人噬人手段処、
    故君子要聡明不露、才華不逞

    鷹の立つは睡(ねむ)るがごとく、虎の行くは病むに似たり、
    まさにこれ他の人を攫(つか)み人を噬(か)む手段のところ、
    ゆえに君子は聡明露(あら)われず、才華逞(たくま)しからざるを要す

    鷹がたたずんでいる姿は眠っているようであるし、虎の歩くさまは病気のように見える。
    だが、それこそ彼らが、人をとらえ、噛み伏せるための手口なのだ。
    賢明さを表わさず、才能を振り回さないのが君子のあり方。
    それでこそ天下の大事業を果たすことができる。

  108. 倹美徳也、過則為慳吝、為鄙嗇、反傷雅道、
    譲懿行也、過則為足恭、為曲謹、多出機心

    倹は美徳なり、過ぐれば慳吝(けんりん)となり、鄙嗇(ひしょく)となり、
    かえって雅道を傷(やぶ)る、
    譲は懿行(いこう)なり、過ぐれば足恭(そっきょう)となり、曲謹(きょくきん)となり、
    多くは機心(きしん)に出(い)ず

    倹約は美徳だが、これも度が過ぎると、
    ケチとなりシワン坊となって道に反するようになる。
    謙譲善行だが、これも度が過ぎればへつらいとなり、バカていねいとなるし、
    しかもたいていは不純な動機が隠されている。

  109. 毋憂払意、毋喜快心、毋恃久安、毋憚初難

    払意(ふつい)を憂うることなかれ、快心を喜ぶことなかれ、
    久安を恃(たの)むことなかれ、初難を憚(はばか)ることなかれ

    思いどおりならぬからといって、くよくよするな。
    万事うまく運ぶからといって、有頂天になるな。長く続く平安に心を許すな。
    最初にぶつかった困難にくじけるな。

  110. 居盈満者、如水之将溢未溢、切忌再加一滴、
    処危急者、如木之将折未折、切忌再加一搦

    盈満(えいまん)に居るは、水のまさに溢(あふ)れんとしていまだ溢れざるがごとし、
    切にふたたび一滴を加うることを忌(い)む、
    危急に処るは、木のまさに折れんとしていまだ折れざるがごとし、
    切にふたたび一搦(いちじゃく)を加うることを忌む

    すべてに満ち足りた境遇は、今にもあふれようとする水のようだ。
    それ以上、一滴でも加えることは決してしてはならない。
    危地に追いつめられた状況は、今にも折れそうになっている木のようだ。
    それ以上の追いうちは決してしてはならない。

  111. 冷眼観人、冷耳聴語、冷情当感、冷心思理

    冷眼にて人を観、冷耳にて語を聴き、
    冷情にて感に当たり、冷心にて理を思う

    冷静な眼で人を観察し、冷静な耳で人の言葉を聴き、
    冷静な感情で物事を受け取り、冷静な頭脳で道理を考えよう。

  112. 性燥心粗者、一事不成、心和気平者、百福自集

    性燥に心粗なるは、一事も成ることなし、
    心和し気平らかなるは、百福おのずから集まる

    せっかちで粗暴な人間は、何をやってもものにならない。
    心が穏やかで落ち着いた人のもとには、さまざまな幸福が自然と集まってくる。

  113. 風斜雨急処、要立得脚定、
    花濃柳艶処、要着得眼高、
    路危径険処、要回得頭早

    風斜めに雨急なるところは、脚を立て得て定めんことを要す、
    花濃(こま)やかに柳あで艶やかなるところは、眼を着け得て高からんことを要す、
    路危うく径(こみち)険しきところは、頭(こうべ)を回(めぐ)らし得て早からんことを要す

    吹きつける風、激しい雨、そんなときには大地にしっかりと足をつけよう。
    花は紅、柳は緑、そんなときには目を奪われることなく、大きな目標に向かって進もう。
    通れそうにない危険な山道にさしかかったら、迷わずさっさと引き返そう。

  114. 節義之人、済以和衷、纔不啓忿争之路、
    功名之士、承以謙徳、方不開嫉妬之門

    節義の人、済(すく)うに和衷(わちゅう)をもってせば、
    わずかに忿争(ふんそう)の路を啓(ひら)かず、
    功名の士、承(う)くるに謙徳をもってせば、
    まさに嫉妬の門を開かず

    理想主義者は、協調の心をもつことで無用の争いから救われる。
    成功者は、謙譲の心を養うことで嫉妬の害を免れることができる。

  115. 士大夫、居官不可竿牘無節、要使人難見、以杜倖端、
    居郷不可崕岸太高、要使人易見、以敦旧交

    士大夫、官に居りては竿牘(かんとく)も節なるべからず、
    人をして見難(がた)からしめて、もって倖端(こうたん)を杜(ふさ)がんことを要す、
    郷に居りては崕岸(がいがん)ははなはだ高かるべからず、
    人をして見ること易からしめて、もって旧交を敦(あつ)うせんことを要す

    官職にあるときは、手紙一通を書くにも気を許してはならない。
    本心を見すかされて悪人につけこまれるのを防ぐために。
    退職して田舎住まいの身となったら、くつろいだ気持ちで人とつきあえ。
    昔の友人も気安く訪ねてこられるように。

  116. 事稍払逆、便思不如我的人、則怨尤自消、
    心稍怠荒、便思勝以我的人、則精神自奮

    事やや払逆(ふつぎゃく)するとき、すなわちわれにしかざるの人を思わば、
    怨尤(えんゆう)おのずから消えん、
    心やや怠荒(たいこう)するとき、すなわちわれより勝(すぐ)るるの人を思わば、
    精神おのずから奮(ふる)わん

    物事が思うようにならぬときは、自分より下の人を見よ。
    そうすれば逆境を怨む気持ちが消えるだろう。
    心がなんとなく投げやりになったときは、自分より上の人を見よ。
    そうすれば気持ちが奮い立つだろう。

  117. 不可乗喜而軽諾、不可因酔而生嗔、
    不可乗快而多事、不可因倦鮮終

    喜びに乗じて諾を軽(かろがろ)しくすべからず、
    酔に因って嗔(いか)りを生ずべからず、
    快に乗じて事を多くすべからず、
    倦(けん)に因って終わりを鮮(すく)なくすべからず

    機嫌のよいときに安請け合いをするな。
    酒に酔って怒りを爆発させるな。
    いい気になって仕事の手を広げるな。
    嫌気がさしてしめくくりをいいかげんにするな。

  118. 善読書者、要読到手舞足蹈処、方不落筌蹄、
    善観物者、要観到心融神洽時、方不泥迹象

    善く書を読むには、手舞い足蹈(ふ)むところに読み到らんことを要す、
    まさに筌蹄(せんてい)に落ちず、
    善く物を観るには、心融け神(しん)洽(やわ)らぐの時に観到らんことを要す、
    まさに迹象(せきしょう)に泥(なず)まず

    書物を読むなら、その真髄にふれて、踊り出したくなるまで読め、
    そうしてこそ枝葉末節にとらわれずにすむ。
    物事を観察するなら、その本質を見とおして、わが精神がそれと一体となるまで観よ。
    そうしてこそ表面の現象に惑わされない。